2001年12月に、ハリウッドの有名女優ウィノナ・ライダーが、ロサンゼルスの高級百貨店で5000ドル相当の洋服を万引きしたとして窃盗罪で逮捕され、日本でもこのニュースが話題となりました。

その後も、歌手のブリトニー・スピアーズやリンジー・ローハンなど、有り余る富を手にしているはずのセレブ達が、数千ドルの商品を万引きする事件が起きています。普通に考えれば首を傾げたくなるこれらの犯罪。実はれっきとした原因がありました。

彼女たちは、クレプトマニアだったのです。

クレプトマニアとは?

クレプトマニアを日本語に訳すと、「窃盗癖」になります。日本ではまだ聞き慣れない言葉ですが、アメリカの精神医学会では「クレプトマニアの診断基準」が定められています。大まかに説明すると、商品の支払い能力はあるにも関わらず、盗みたいという衝動が湧き起り、それを押えられずに万引きをしてしまう、心の病です。

いわゆる泥棒の万引きの目的は、盗品の使用や転売による利益獲得ですが、クレプトマニアは、万引き行為そのものが目的です。泥棒は万引きを止めようと思えば止められるのに対して、クレプトマニアは自分の意志では止めることが出来ません。

また、クレプトマニアは摂食障害を併発している例が多く、その他の依存症とも無関係ではない事が分かっています。

クレプトマニア本人は、自分が心の病である事に気が付いていないケースが多いようです。何度も万引きで捕まり、とうとう刑務所に入る段階に至ったところで、自分は精神的におかしいのではないか?と思った人もいる位です。

心の病ですから、本人の意志や努力だけでは治りません。「もしかして自分はクレプトマニアかも」という心当たりのある方は、一刻も早く精神科や心療内科を受診することをおすすめします。

自助グループという選択

クレプトマニアの治療では、投薬や認知行動療法(認知の歪みをカウンセリングで修正し、問題行動の改善を目指す)が行われます。しかし、完治するまでには多くの時間を必要とするケースが殆どです。早い人でも半年、なかには何年もかけて粘り強く治療を続けなければならない人もいます。

そのため、治療の最中に万引きを繰り返してしまい、最悪の場合逮捕、起訴となり、実刑判決を受ければ刑務所に収監されます。心の病だからと言って、窃盗の罪が消えることはありません。治療の最中、患者の心の支えとなるのは、家族であったり、友人であったりしますが、患者の心を一番理解できるのは、同じ病に罹っている人ではないでしょうか。

そこで、ご紹介したいのが自助グループです。

お互いの病状や、これまでの経緯などを語り合い、共に病を乗り越えるために、同じ病を抱える人たちが集まる場を、自助グループと言います。

自助グループのメリット

クレプトマニアには、過去にトラウマになるような経験をした事のある人が多くいます。また、摂食障害やその他の依存症を併発しているケースも少なくありません。同じ病で苦しむ人の、赤裸々な胸の内を聞くことによって、「辛い思いをしているのは自分だけではないのだ」と思えるようになり、病気と前向きに向き合って行く気力が湧きます。

また、何度もミーティングを重ねることにより、グループ内の仲間意識も芽生えてくるので、仲間を裏切りたくない、という思いが、万引きへの抑止力になるのです。どうしても衝動が抑えられずに万引きをしてしまった、という仲間の告白を聞くことによって、それが自分への戒めになり、「わたしは絶対にもう万引きをしないぞ」と決心するきっかけになったという方もいます。

そして、一番のメリットは、どんな自分でも受け入れてもらえる場所がある、という安心感を持てる所でしょう。共感が共感を呼び、それがグループの持つ癒しのパワーへと繋がっていくのです。

自助グループのデメリット

メリットが多い自助グループですが、知っておいて欲しいデメリットもあります。

自助グループのスタンスは、人の話しを聞く、自分の話しをする、というシンプルなものです。そのため、あまりに重たい話を聞いた時や、自分のトラウマを思い出すような話が出た時でも、聞きっぱなしの状態なので、落ち込んだ気持ちを発散させることが出来ません。

自助グループに参加するのは、ある程度治療が進み、精神的に安定している回復期にある患者さんが適しています。また、人が集まれば必ず発生するのが、人間関係の悩みです。同じ病を抱えていると言っても、まったく共感できない人もいれば、気の合わない人もいるでしょう。

グループに所属している事自体が苦痛になり、治療の妨げになる、と判断した時は、速やかに退会を申し出て下さい。

万引きをしないための具体的な対策

万引きをしないためには、買い物に行かないことが一番良いのですが、患者が一人暮らしの場合や、家庭の主婦などの場合は、そうも言っていられません。そこで、万引きをしたくても出来ない状況を、自分で作りだす方法を考えてみます。

ネットショッピングやカタログ通販を利用する

今や、パソコンのマウスのクリック操作ひとつで、欲しい物が何でも買えてしまう時代です。これを利用し、極力デパートやスーパーに行かずに済む方法を考えましょう。食品も、注文すれば自宅まで届けてくれるネットサービスが増えて来ています。

近所に生協に入っている人がいれば、仲間に入れてもらうのも良いですね。

ひとりで買い物に行かない

買物に行く時は、必ず誰かに付き添ってもらいましょう。友達でも良いですし、子どもでも良いです。「盗みたい」という衝動が起きた時に、隣に誰かがいれば何とか我慢できる可能性もぐっと高まります。

持ち物はお財布ひとつ、服装もシンプルに

買物に行くときに、バッグやエコ袋など、万引きに役立ちそうなグッズは一切持たず、お財布ひとつで出かけて下さい。物を盗んだ後に、隠すところがなければ、盗みようがありません。

寒い時期でも、マフラーやストールなど、万引きの隠れ蓑にできそうな物を身に着けることはやめましょう。ポケットがある上着なども、買い物の際には着て行かないで下さい。パンツのポケットはすべて縫い付けてしまう位の、徹底した覚悟も必要です。

決まった店で買い物をする

買物は、ここ、という店を一軒決めてしまいます。多少、自宅から遠くても、なるべく小さな店を選ぶようにして下さい。そして、自分から店員さんに「こんにちは」などと、不自然でない程度に声を掛けましょう。

それを繰り返していくと、店員さんともそのうち世間話をする程度の顔見知りになります。“知り合い”の目の前で万引きをすることは、なかなか難しいのではないでしょうか。

常にお守りを身に着けておく

ここで言うお守りとは、自分の大切な人の写真や、大切な人からもらった物の事です。店に入る前に、一度深呼吸をして、お守りを必ず見るようにします。あなたが万引きをすることによって、悲しむ人達の顔を思い浮かべて下さい。買物の最中に、盗みたいという発作に襲われた時のために、お守りをすぐに取り出せるよう、あらかじめ工夫しておくのも良いですね。

まとめ

クレプトマニア(窃盗癖)は、まだまだ世間の認知度の低い病気です。また、症状がダイレクトに反社会的な行為に通じてしまうところが、この病気を患った本人や家族にとって、一番辛いことかも知れません。

しかし、他の依存症と同様に、時間はかかりますが、適切な治療を受ければ必ず治る病気です。周囲の理解が得られず、苦しい思いをする事もあると思いますが、決して投げやりにならず、堂々とデパートやスーパーで買い物ができる日が来ると信じ、治療を続けて下さい。