かつて万引きは、青少年の軽犯罪の代表とも言われていました。ところが、警察庁発表の犯罪統計によると、2011年に万引きの検挙者数は未成年者を65歳以上の高齢者が追い抜きました。2017年には未成年者の3倍以上の高齢者が、万引きで検挙されています。

国民の4人に1人が65歳という高齢化社会の影響や、若者に比べ高齢者の方が逃げ足が遅いという事を差し引いても、驚くべき数字です。

高齢者の万引きの理由としてよく挙げられるのが、「孤独と貧困」です。身寄りのない一人暮らしのお年寄りが、寂しさのあまり出来心で万引きしてしまう。経済的に困窮し、今日明日の食料にも困り果て、つい店の食料品に手が伸びてしまった。

そのような例が多いのも確かです。しかし、何不自由なく暮らしている家庭の主婦や、長年真面目に働いてきて定年を迎えた男性が、万引き犯として捕まってしまう、そのようなケースが増えて来ています。

後にも述べますが、万引きは特別な人が起こす犯罪ではありません。何かのきっかけさえあれば、誰が万引き犯になってもおかしくはないのです。

もしも、あなたの親が万引きの罪を犯した時、あなたは子どもとしてどう親に接しますか?

高齢者の万引きの理由とは?

平成26年度版の犯罪白書から、高齢者の万引き事犯者の背景事情のグラフをご紹介します。

男性

家族と疎遠・身寄りなし 26.7%
収入減 23.3%
近親者の病気・死去 23.3%
習慣飲酒・アルコール依存 10.0%

女性

近親者の病気・死去 26.5%
家族と疎遠・身寄りなし 20.6%
収入減 14.7%
配偶者等とのトラブル 14.7%
親子兄弟等とのトラブル 11.8%
体調不良 11.8%

ここで注目して頂きたいのが、女性の万引きの理由では、配偶者等とのトラブルと、親子兄弟等とのトラブルを合わせ、全体の約4分の1を占めている点です。

家族問題のストレスが引き金となって、万引きを繰り返すようになる主婦が多い事が分かります。男性で言うと、収入減が23.3%となっていますが、これは定年を迎え年金生活に入ったケースが多いと思われます。男性の場合、今まで築いてきた人間関係が、会社を退職することによりリセットされます。それまで仕事一筋に頑張って来た真面目な人ほど、趣味もなく、近所付き合いもなく、孤立しがちです。

だからと言って、万引きをして良い理由にはなりませんが、一度か二度の万引きならば、店側に誠意を尽くして謝れば、「魔が差した」ということで終わるでしょう。しかし、万引きを止めようと思っても止められない。盗みたい、という衝動が抑えられない。このような状態になると、もはや家族がどんなに悲しもうと、何度警察に捕まろうと、本人が自発的に万引きを止めることは不可能になります。

アルコールや薬物に依存する人がいるように、万引きに依存する「クレプトマニア(窃盗癖)」という病に罹っているためです。

まずは医療機関を受診させる

親が万引きで捕まるたびに、店から呼び出され、家族として親の代わりに謝罪し、もう二度と万引きはしないと親に誓わせても、また親は万引きを繰り返します。

あなたが泣きながら懇願しても、もう親子の縁を切ると脅しても、残念ながら親の万引きが止まることはありません。依存症の患者は、一度スイッチが入ってしまうと、罪悪感も社会常識も軽々と飛び越えて、依存の対象となっている行為に走ります。

それほど依存症とは恐ろしい病気です。

また、依存症の患者本人は、自分は依存症であるということを自覚していない場合が多いため、家族が医療機関への受診を促す必要があります。

ですが、ここでまたひとつ高いハードルを越えなければなりません。

10人に1人がうつ病に罹る現代では、心療内科への通院はそれほど珍しいものではありませんが、年齢が高い人ほど、精神科や心療内科に対する偏見を持っているようです。

そのため家族が受診を勧めても、本人が頑として受け付けないこともあります。

しかし、万引きも犯行が度重なったり、被害金額が大きい場合は、警察に逮捕され、起訴されます。そうすると、家族は弁護士の選任に追われ、情状証人として裁判に出廷し、例え有罪判決を免れたとしても、多大な精神的負担を強いられることになるのです。

それでも、依存症である患者は万引きを繰り返します。そうなると、もはや親子の関係は修復不可能です。

そのような事態を避けるためにも、親を説得し、病院に連れて行かなければいけません。

万引きを止めるための絶縁宣言は意味がありませんが、受診させるために、心を鬼にして「病院に行かないのなら、親子の縁を切る」ときっぱり伝えることも大切です。

万引きの原因になったストレスの緩和に努める

親に万引きを止めさせようと努力するよりも、万引きの原因になっているストレスは何なのか、家族でよく話し合い、その原因を突き止めて下さい。

患者の症状が落ち着いている時を見計らって、なぜ万引きがしたくなるのか、じっくり話を聞いてみると、解決への糸口となるようなヒントが得られるかも知れません。

もしも、そのストレスが配偶者との関係にあるのなら、子どもとして出来ることは限られてくるでしょう。しかし、介護がストレスの原因になっているのならば、あなたの出来る範囲で、介護の手助けをすることは可能です。

また、患者が家に閉じこもりっきりで、社会との接点がない場合などは、なるべく一緒に外出したり、趣味を見つけることを勧めるのも良いと思います。

患者の興味の対象が万引き以外のことに向けられるよう、できれば社会との繋がりを実感できるような活動ができるよう、手助けしてみて下さい。

親は親として扱う

万引きした親を店に迎えに行き、親の尻拭いをし、という事を繰り返していると、親子の立場が逆転します。子どもが親をたしなめ、親がそれに従う事が習慣化すると、本来あるべき親子の形と、かけ離れてしまうのも仕方のない事かも知れません。

それでも、患者本人に親としての自覚を忘れさせてしまうと、子どもであるあなたに甘えるようになります。それは、病気にとって良い結果をもたらしません。

患者自らが「自分は親なのだから、しっかりしないといけない」という、親としての役割を果たそうとする気持ちを持ち続けることが大切です。子どもであるあなたは、あくまで自分の生活を第一に考え、出来る範囲で援助を行いましょう。

家族が孤立しないために

万引き依存症の患者を抱える家族は、「万引きの事が誰かに知られたら恥ずかしい」という思いから、世間から孤立しがちです。親戚や友人に相談したくても、できない場合もあるでしょう。

依存症の家族が心労のあまり、うつ病などの精神疾患に罹ることも、珍しいことではありません。

そんな事態を避けるためにも、依存症患者の家族同士が集まり、話をしたり聞いたりする家族会への参加をお勧めします。同じ立場の人に、話を聞いてもらうことで、ストレスが発散でき、逆に人の話を聞くことによって慰められたりもします。

「同じ悩みを抱える人がいる」という事を知るだけでも、随分心が楽になるはずです。

まとめ

万引きがやめられない親を、子どもの立場でどう支えていくか、というのは非常に難しい問題です。特に65歳以上の高齢者の子どもは、働き盛りの年代でもあり、子育て真最中の世代でもあります。

自分の生活を守りつつ、親の更生を見守っていくためには、親が抱えている問題に子どもとしてどこまで介入するのか、ある程度の線引きをしておくことも必要でしょう。